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はやぶさ2衝突実験解説(上)アクロバティックな運用 カギを握る二つの新機器 - 毎日新聞 - 毎日新聞

 探査機はやぶさ2の大一番が迫ってきた。はやぶさ2は5日午前、小惑星リュウグウ表面にクレーターを作るための衝突装置を分離し、自らはリュウグウの陰に隠れ、その間に衝突装置を爆発させて銅の球をリュウグウへぶつけ、置き去りにした小型カメラで衝突の様子を撮影する――というアクロバティックな運用に挑戦する。成功すれば世界初の小惑星での衝突実験となるが、逃げ遅れて衝突装置や小惑星の破片にぶつかったり、逃げる途中で小惑星に接触したりすれば、探査機が致命的な損傷を受ける恐れがある。この運用のカギを握るのが、打ち上げ後、初めて出番を迎える二つの新しい機器、衝突装置と小型カメラだ。これらの新規機器を2回にわたって解説する。【永山悦子】

「小型搭載型衝突装置」初代になく新たに開発

 これら二つの機器は、はやぶさには搭載されず、はやぶさ2で新たに開発された新規機器だ。

小惑星へクレーターを作る実験で使われる衝突装置=宇宙航空研究開発機構提供

 まず衝突装置から解説しよう。正式名称はSCI(Small Carry-on Impactor)と呼ばれ、「小型搭載型衝突装置」を意味する。なぜ「小型」か。

 はやぶさ2の開発に当たり、当時、はやぶさプロジェクトマネジャーだった川口淳一郎・宇宙航空研究開発機構(JAXA)シニアフェローは、JAXA理事長から「はやぶさ2を実現するためには何か新機軸を考えるように」と指示された。そこで、探査機を2機打ち上げ、そのうち1機を小惑星にぶつけるという計画を立てた。しかし、探査機1機を作る予算すら見通せない中、計画の実現は非常に困難だった。その頃、防衛関係の企業関係者と話をする中で、現在の衝突装置につながる技術の存在を知ったのだという。

 川口さんは当初、「衝突するものはちっぽけだし、ぶつかる速度もあまり速くない。これで大丈夫だろうか」と思ったそうだが、調べるうちにメリットが見えてきたという。探査機を高速でぶつける場合、軌道を精密にコントロールすることは難しく、小惑星のどこにぶつかるか分からない。また、探査機をまるごとぶつけると、小惑星表面に探査機の破片が大量に飛び散る。そこからものを持ち帰っても、小惑星のものか探査機のものか分からなくなる恐れがあった。「銅のかたまりを精度よく撃ち込むことができるのであれば、逆にいいかもしれないと思った」(川口さん)

はやぶさ2の衝突装置運用の流れ

 川口さんは2009年、衝突装置開発の担当にJAXAの佐伯孝尚さん(現・はやぶさ2プロジェクトエンジニア)を指名した。佐伯さんは、民間企業からJAXA宇宙科学研究本部(現・宇宙科学研究所)に移ったばかり。佐伯さんは「最初は、川口先生から『佐伯君の手が空いていそうだからやってもらおうか』という軽いノリだった。小型のものにしようとなってはいたが、まだ今の形に決定していたわけではなく、大砲のようなぶつけ方やドリルによって掘る方法も検討した」と振り返る。

 しかし、装置にかけられる重さが当初は15キロ以内と限られており、複雑な機器にすることは難しかった。単純な構造で、さらに精度を上げるために短距離からでも高速で撃ち出せる方法としてたどりついたのが、強力な爆薬を使って衝突体を撃つ現在の方式だった。

 具体的には、分離のための機器を含めた直径30センチ、高さ20センチの筒状の容器の内部に、直径26・5センチ、高さ17センチの円すい形の「爆薬部」が入っている。ステンレス製の爆薬部には強力なプラスチック爆薬が約5キロ詰められ、底に凹面鏡のような形に成形された銅板がはめ込まれている。爆薬に点火すると、銅板が強い力で真ん中から変形を始め、やがてちぎれて前に飛び出し、ソフトボール大の丸い球状になってリュウグウ表面へ向かって飛んでいく。その時間は一瞬で、点火から1000分の1秒後には秒速2キロという猛スピードに達する。

探査機はやぶさ2の衝突装置に点火し、凹面鏡の形の銅板が撃ち出されて、ソフトボール大の球状になった様子=宇宙航空研究開発機構提供

ドンピシャの命中精度「たくみの技」完璧に機能

 小惑星にそれなりの大きさのクレーターを作るには、約2キロの重さの衝突体をぶつける必要があり、分離のための機器も含めた装置全体の重さは最終的に約18キロになった。

 実際の開発は困難をきわめた。開発が正式に決まったのは10年。1964年の東京オリンピックの聖火トーチを作ったことでも知られる弾薬メーカー「日本工機」(東京都)が受注したが、14年に打ち上げることが決まっていたから、開発時間はほとんどなかった。

 効率的に大きなクレーターを作れる衝突体の形を探すため、夜通しでコンピューターを動かし続けた。その結果、弾丸のような細長い形ではなく、球状にすることにした。重量を軽くするため、爆薬部の形は筒状ではなく円すい形にした。

屋外で実施された衝突装置の点火実験。銅の球が的の真ん中を射抜き、当たった土が大きく舞い上がった=2013年10月、宇宙航空研究開発機構提供

 ところが、この形が開発をさらに難しくした。爆薬はホットケーキの生地のようにドロドロとした状態。爆発の威力を上げるため、サラサラにはできなかった。ろうとのように爆薬部の底側から入れられれば、均等に詰めることは比較的簡単だった。当初は、底にはめ込む銅板をねじで留める予定だったが、それでは宇宙の真空状態に耐えられないことが分かり、溶接することが必要になった。火を使うため、爆薬を入れるのは溶接後となり、直径2センチしかない細い口からドロドロの爆薬を流し入れなければならなくなった。特に、底にまんべんなく入れることは難しく、同社は「職人的なたくみの技が求められた」と振り返る。

 追い打ちをかけたのが、11年の東日本大震災だった。開発を担当した同社の拠点は福島県西郷村にあり、震災によって建物に被害が出たほか、電気や水道などが約1カ月も止まった。その年の夏には、衝突体の衝突性能を確認する大規模試験を実施する予定もあり、スケジュールはさらに厳しくなったという。

 佐伯さんが何度も福島県へ足を運び、必要な作業の調整を続けた結果、同年10月に1回目の試験にこぎつけることができた。13年にも試験を実施し、銅の球が「狙い通り。ドンピシャ」(佐伯さん)の命中精度で飛ぶことが確認された。「たくみの技」が完璧に機能したとみられる。

 衝突装置ができたとしても、銅の球が狙った場所に当たるように、分離時の速度には細心の注意が必要となる。装置を探査機から分離するとき、ばねの力で秒速20センチで押し出される。そのままの速度では爆発時に地表間近へ到達してしまうため、分離の瞬間は探査機を秒速14センチほどで上昇させ、装置の降下速度を秒速6センチ程度に落とす。分離の際は、装置にスピンをかけてコマのように回し、狙った方向へ導く計画だ。津田雄一・はやぶさ2プロジェクトマネジャーは「この装置は一点ものなので、事前に練習ができないことがこれまでの運用と異なる。さらに分離したら、点火を止めることができない。2月の着陸も非常に精神力を使ったが、うまく進まなければやり直しができた。後戻りができないという意味で、別の緊張感がある」と話す。

 また、爆発に探査機本体が巻き込まれては意味がない。衝突装置自体も爆発でバラバラになり、小惑星表面に銅の球がぶつかれば破片がまき散らされるとみられる。それらがはやぶさ2にぶつかれば、破壊されかねない。そこでアクロバティックな運用が考えられた。

 銅の球をぶつける目標は、2月にはやぶさ2が着陸した地点から東へ約800メートル離れた場所。はやぶさ2は、その上空500メートルの地点で衝突装置を切り離す。衝突装置にはタイマーがついており、分離から40分後に起爆する。起爆までの間に、はやぶさ2はいったん水平方向へ1キロ、そしてリュウグウの裏側へ向かって4・5キロ移動し、リュウグウの陰に隠れる。

 退避時は秒速3・5メートルとかなりの速さで、小惑星の横500メートルを通り過ぎる。小惑星近くにいる場合、地上からの指令では間に合わないため、一連の動きは探査機自身が自律的に判断して実施する。このため、佐伯さんはこの運用について「目隠しをしたまま(JAXA東京事務所のある)お茶の水から4キロ先の浅草寺にお参りにいくようなもの」と解説する。

 次回は、さらにアクロバティックに、宇宙空間に浮かびながら衝突実験の様子の撮影に挑む小型カメラを紹介する。

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https://mainichi.jp/articles/20190403/k00/00m/040/113000c

2019-04-03 04:43:00Z
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