探査機「はやぶさ2」が24日、衝突装置をぶつけてできたクレーターを探す運用を開始した。25日正午前後に小惑星リュウグウの高度1.7キロから詳細に観測し、事前に撮影した画像と比べるなどしてクレーター作りに成功したかを判断する。小惑星にクレーターができていれば史上初となる。
「ベスト・オブ・ベストのシナリオになった」(5日、津田雄一・プロジェクトマネジャー)、「今までの状況を見るとほぼ命中したと思う」(11日、久保田孝・宇宙航空研究開発機構=JAXA=宇宙科学研究所研究総主幹)。はやぶさ2が5日に挑んだ衝突実験は、その日のうちに小惑星の表面からものが飛び散る様子が写真で確認されて成功が判明。極めて順調に実施されたとみられる。
その背景には、綿密な計画と準備があった。衝突装置を開発した佐伯孝尚・プロジェクトエンジニアは「(探査機の姿勢や動きを変える)スラスター(化学エンジン)がチャンピオンデータだった」と振り返る。チャンピオンデータとは、理想値に最も近い実測値を指し、想定していた誤差を大幅に下回る理想的な噴射が実現したという。その結果、衝突装置を分離する際の探査機の位置の計画とのずれは、事前の「最大30メートル」との想定に対し、数メートル程度に抑えられたとみられる。さらに装置を分離する速度も計画通り、装置の爆発の影響から逃れるため、小惑星の陰へ隠れる退避もほぼ計画通りのルートに沿っていた。中間赤外カメラで撮影した分離直後の装置の動きを見ても、きれいにまっすぐ降下しており、回転軸がぶれることはなかった。
佐伯さんは「リュウグウ到着から9カ月たち、探査機に慣れてきたところがある。また退避の際はエンジンをこれまでになく長い時間(20秒)噴く必要があったが、1月に10秒噴射するリハーサルを無理やりねじこんだことも良かった」と明かした。燃料を余計に使うことになるため、当初は津田さんに難色を示されたというが、「探査機の姿勢にどのような影響が出るかを確認すべきだ。誤った方向へ進むと小惑星に激突する恐れもある」と訴え、リハーサルを実現させた。「探査機の姿勢や運動が見えて、運用の細かい数値の調整ができたし、『変な動きはしないだろう』と安心して本番に臨むことができた。極めて正確な噴射になった」
分離した装置が変な姿勢にならず、まっすぐ降下していく画像を見たとき、一緒に装置を開発したメーカーの人から「佐伯さんの執念の調整が実ったね」と声をかけてもらったという。「まっすぐ降りるには、重心が回転軸とずれないようにすることが必要。2014年の打ち上げの直前まで、粘って回転実験を続けた結果、重心がずれていることが分かった。そこで(射場のある)種子島におもりを2個持って行って取り付けた。それが生きたのだと思う」(佐伯さん)。
衝突の様子の撮影に成功した小型カメラ「DCAM3」は、開発に非常に苦労した。当初はアナログカメラだけを載せる予定だったものが、打ち上げ3年前に科学的な成果を目指してデジタルカメラも加えることになったからだ。開発を担当した澤田弘崇・はやぶさ2プロジェクト主任研究開発員は「はやぶさ2の機器の中で、最も開発期間が短かった。当時は『なぜこの時期に追加?』と思ったほど、非常に苦しく、泣きそうになりながら作った」と話す。
レンズや基板だけではなく、アンテナ、通信機もデジタルとアナログの2種類を搭載した。共有できたのは電源のみ。さらに機器同士をつなぐケーブルも必要。それらを空き缶ほどの小さな器に押し込む作業は、困難を極めた。科学的な成果につながる可能性の高いデジタルカメラが十分に撮影できるように、撮影時間や通信用アンテナの場所もデジタルを優先させた。
はやぶさ2から衝突装置とカメラが分離された後は、それぞれのタイマーで作動する。衝突の瞬間を的確にとらえるため、はやぶさ2、衝突装置、カメラのそれぞれの動作のタイミングを秒単位で設定した。カメラは打ち上げ後は探査機とは電気的につながっていなかったため、打ち上げ前にタイマーの設定をした。それらのすべてが計画通りに進み、アナログもデジタルもともに撮影に成功した。
澤田さんは5日に開かれた記者会見で、「打ち上げから4年以上、カメラが正常かどうかのテストもできなかったから一発勝負だった。時間通りに通信を始めたことが確認できたときは、声が出ないほど感動した。人類の小さな目がはやぶさ2本人では見えなかった実験をきちんと見ることができ、使命を果たせたのは、開発担当者としては感無量」と話した。
澤田さんは、試料採取装置(サンプラー)なども開発したが、「比べものにならないほど(カメラでは)緊張した。エンジニアとしては『自信がある』と言わねばならないが、(成功するかどうかは)五分五分よりも低いと思っていた」と振り返った。DCAM3のアナログカメラは計約500枚の写真を撮影したとみられる。デジタルカメラは、撮影開始から約3時間も毎秒1枚のペースでシャッターを切ったとみられ、現在、徐々にデータを地球へ送っている。
はやぶさ2には、先代の探査機「はやぶさ」という土台があった。しかし、打ち上げ前から綿密な準備を重ね、独自のシミュレーターを開発して運用訓練をしつこいほど繰り返した。「リュウグウへ着いたころは、探査機を自律的に動かすのが怖くて、『やめよう、やめよう』と言っていたのに、今は自律運用をどんどんやって、数メートルの誤差まで(探査機を)持っていけるようになった」と佐伯さん。そして、衝突実験を終え、次のように言った。「まじめにやればうまくいくんだな、と思った」
衝突実験の結果、クレーターができたかどうかは相手次第だ。衝突装置から撃ち出された銅の球が潜り込んでしまっていたり、表面が硬くて穴が掘れなかったりする可能性もゼロではないからだ。さらに、首尾良くクレーターができていた場合も、プロジェクトチームにとって悩ましい課題が浮上する。今年2月に続く、2回目の着陸に挑むかどうか、だ。
2月の着陸成功で、はやぶさ2はリュウグウの物質を採取できたとみられている。2回目の着陸に挑んでトラブルを起こせば、せっかくの成果が水泡に帰すことになる。クレーターの地形や周辺の状況によるが、JAXAやプロジェクトチーム内にもさまざまな意見があるという。
久保田さんは「衝突実験後、いったんリュウグウから100キロ離れたはやぶさ2を、リュウグウの高度20キロへ戻す運用は、非常にゆっくりと進められた。エンジンをできるだけ使わず、燃料を節約する作戦をとっているようだ。つまり、2回目を想定し、リハーサルや着陸の運用のためにとっておこうということだろう」と話す。佐伯さんは「2回目の着陸は、もちろんやるつもりでいる。ただし、少なくとも1回目の着陸程度の平らな場所があるか、1回目の着陸で曇ったカメラや機器の状態がどうか、ということによって、難しくなることも考えられる。本当に最後まで粘って、何とかやりたいと思っている」と意欲を示した。
クレーターはできているのか。JAXAは24日以降、降下するはやぶさ2から届くリュウグウの写真をプロジェクトのホームページで随時公開する予定。私たちも目をこらして表面を見てみたい。【永山悦子】
https://mainichi.jp/articles/20190424/k00/00m/040/134000c
2019-04-24 08:34:00Z
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